
「SNS広告」と聞くと、多くのマーケターがInstagramやX(旧Twitter)、TikTokを思い浮かべるかもしれません。しかし、もしあなたのビジネスが「ビジュアル」と「ライフスタイル」に関連し、特に購買意欲の高い層にアプローチしたいと本気で考えているなら、今、最も注目すべきプラットフォームがあります。それがPinterest(ピンタレスト)です。
Pinterestを「女性向けのオシャレなSNS」とだけ捉えているとしたら、それは大きな機会損失です。私自身、SEOやWebマーケティングの専門家として様々なプラットフォームの広告効果を分析してきましたが、Pinterestはそのどれとも異なる「異質な特性」を持っています。それは、ユーザーが「交流」や「暇つぶし」のためではなく、「未来の自分のためのアイデア」を能動的に「検索」しに来る場所であるという点です。
この独自のユーザーマインドこそが、広告を「邪魔者」ではなく「探していた情報」として受け入れさせる、広告主にとって理想的な環境を生み出しています。ここでは、そのユニークな可能性から、具体的な運用テクニック、他SNSとの明確な使い分けまで、プロの視点で徹底的に解説していきます。
目次
まず、Pinterestの「現在地」を正しく理解することから始めましょう。Pinterestは、単純なSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)ではありません。その本質は、「アイデア」を発見し、保存(ピン)し、整理するための「ビジュアル発見エンジン」です。
ユーザーは、インテリア、レシピ、ファッション、旅行先など、あらゆるインスピレーションをビジュアル(画像や動画)で検索します。気に入った「ピン」は、自分の「ボード」と呼ばれるテーマ別のコレクションに保存されます。この「保存(リピン)」という行為が、ユーザーの「興味・関心」のデータベースを構築していくのです。
この時点で、他の主要SNSとの決定的な違いが浮かび上がってきます。
対してPinterestは、ユーザーが「未来」の計画のためにアイデアを探す場所なのです。この「未来志向」が、Pinterestのユーザー層と特性をユニークなものにしています。
【ユーザー層と特性】
この特性の違いを、他のSNSと比較してみましょう。
| プラットフォーム | 主な目的 | 時間軸 | ユーザーマインド |
|---|---|---|---|
| アイデアの発見・計画 | 未来 | 能動的(検索・収集)、購買に前向き | |
| 交流・発見・記録 | 過去~現在 | 受動的(閲覧)、衝動的(発見) | |
| X (旧Twitter) | 情報収集・交流 | 現在(リアルタイム) | 能動的(情報収集)、受動的(閲覧) |
参考ページ:SNS広告のトレンドとこれからの展望
Pinterestの核心的価値は、見出しにもある通り「未来の行動」のために使われる点にあります。これは、広告主にとって計り知れないほどの価値を持ちます。
考えてみてください。ユーザーが「結婚式 ドレス」と検索するとき、彼女は「今」ドレスを買うわけではありません。おそらく「半年後」や「1年後」の結婚式という「未来のプロジェクト」のために情報を集めています。このマインドセットが、なぜ広告に最適なのでしょうか?
私自身、SEO(検索エンジン最適化)を専門としていますが、Google検索とPinterest検索は似て非なるものです。この違いを理解することが重要です。
| 検索プラットフォーム | Google検索 | Pinterest検索 |
|---|---|---|
| 検索の意図 | 顕在的・言語的 (例:「〇〇 故障 修理」) 明確な「悩み」の解決。 |
潜在的・視覚的 (例:「〇〇 リビング レイアウト」) 曖昧な「願望」の具体化。 |
| 時間軸 | 現在~直近の未来 | 数ヶ月~数年先の未来 |
| ユーザーの態度 | 比較検討、答え(正解)探し | 発見、インスピレーション、収集 |
Googleが「答え」を提示する場所なら、Pinterestは「可能性(アイデア)」を提示する場所なのです。この「可能性」に自社の商品を滑り込ませるのが、Pinterest広告の本質です。

Pinterest広告は、オーガニック(通常の)ピンとシームレスに溶け込むように設計されています。ユーザーの「アイデア探し」を邪魔しない、多彩なフォーマットが用意されています。
これらのフォーマットを、広告の「目的」に応じて使い分けることが重要です。
| 広告フォーマット | 主な特徴 | 推奨される広告目的 |
|---|---|---|
| 静止画ピン | 高画質なビジュアル1枚。最もシンプル。 | 認知拡大、比較検討、クリック(サイト遷移)促進 |
| 動画ピン | 動きと音で魅了する。ハウツーや使用感の伝達に優れる。 | ブランド認知、比較検討(商品の使い方を理解させる) |
| カルーセルピン | 複数枚の画像(または動画)をスワイプ。手順や複数商品の紹介。 | 比較検討(詳細な機能紹介)、クリック促進 |
| ショッピングピン | 価格、在庫情報をリアルタイム表示。EC連携。 | コンバージョン(購入促進)、リターゲティング |
| アイデアピン広告 | 全画面の没入型ストーリーテリング。複数素材の組み合わせ。 | ブランド認知(世界観の伝達)、エンゲージメント構築 |
Pinterest広告が他のビジュアル系SNS広告と一線を画す最大の理由。それは「キーワードターゲティング」が極めて強力であることです。
前述の通り、Pinterestは「検索エンジン」です。ユーザーは「言葉」を使って、自分の欲しいビジュアル(アイデア)を探します。この「検索キーワード」に直接広告を配信できるのです。これは、Googleの検索連動型広告(リスティング広告)と全く同じ思想です。
【仕組み】
広告主は、ユーザーが検索するであろうキーワード(例:「時短 レシピ」「キャンプ おしゃれ」「20代 メイク」)を指定します。ユーザーがそのキーワード、あるいは関連するキーワードで検索した際、その検索結果フィードにあなたの広告ピンが自然に紛れ込んで表示されます。
【活用メリット】
私の経験から言っても、この「キーワード(言葉)」と「ビジュアル」が直結しているプラットフォームは非常に稀有です。成功の鍵は、Googleでのキーワード選定と同様に、ユーザーの「生の言葉」をいかに想像し、収集できるかにかかっています。
単に「インテリア」と設定するのではなく、「インテリア 北欧」「インテリア 一人暮らし 女子」「インテリア 韓国風」といった、ユーザーの「検索意図」を細分化してキーワードを設定することが、高い広告効果を生むための第一歩です。Pinterestの検索窓に表示される「サジェストキーワード(検索候補)」は、そのための宝の山と言えるでしょう。
関連文献:初めてでも成果が出せるSNS広告の始め方
キーワードターゲティングが「今、探している」という顕在層にアプローチする「点の施策」だとすれば、「興味・関心ターゲティング」は、「これから探すかもしれない」潜在層にアプローチする「面の施策」です。
【仕組み】
Pinterestは、ユーザーが日頃からどのようなピンを閲覧し、どのようなボードに保存しているかをAIによって学習・分析しています。その結果、各ユーザーを「美容」「食品」「DIY」「旅行」といった、数千種類もの細かい「興味・関心カテゴリ」に分類しています。
このターゲティングでは、「美容カテゴリに興味がある人」といった、より広範なユーザー群に対して広告を配信します。
【キーワードターゲティングとの比較】
この2つのターゲティングは、どちらが優れているというものではなく、目的によって使い分けるべきです。
| ターゲティング手法 | キーワードターゲティング | 興味・関心ターゲティング |
|---|---|---|
| アプローチ対象 | 顕在層(今まさに検索している人) | 潜在層(そのカテゴリに興味がある人) |
| ユーザーの意図 | 明確(例:「〇〇が欲しい」) | 曖昧(例:「美容全般に興味がある」) |
| 主な広告目的 | コンバージョン(購入、申込)、比較検討 | 認知拡大(リーチ)、ブランディング |
| プロの視点 | CPA(獲得単価)が合いやすいが、リーチ数は限定的。 | リーチは広がるが、意図が曖昧なためCPAは悪化しやすい。 |
プロの運用者は、この2つを組み合わせて使います。例えば、「『インテリア』に興味がある人(興味・関心)」が、「『北欧』と検索(キーワード)」した時に広告を出す、といった「掛け合わせ」を行うことで、リーチの広さと関連性の高さを両立させることが可能です。これがPinterest広告運用の醍醐味の一つです。

Pinterest広告が、特にEC(Eコマース)事業者やD2C(Direct to Consumer)ブランドにとって、他のどの広告プラットフォームよりも強力な「最終兵器」となり得る理由。それが「カタログ連携(データフィード連携)」機能です。これは、私がクライアントのECサイト支援で、その効果を目の当たりにしてきた、まさに革命的な機能です。
【仕組み】
自社ECサイトが持つ「商品カタログ(商品名、価格、在庫、商品画像URLなどが記載されたデータファイル)」をPinterestにアップロード(または自動連携)します。
【これにより、何が起こるか】
この機能の登場により、Pinterestは単なる「アイデア発見の場」から、「アイデア発見から購買までが完結する場」へと進化しました。ShopifyやEC-CUBEなど、多くの主要ECカートシステムがこの連携に標準、またはプラグインで対応しています。EC事業者であれば、この機能を使わない手はありません。
付随記事:広告初心者でもわかるSNS広告の基礎知識
「アイデアピン」は、Instagramの「リール」や「ストーリーズ」に相当する、Pinterest独自の没入型コンテンツフォーマットです。そして、これは広告(アイデアピン広告)としても活用できます。
【アイデアピンの特徴】
【広告としての活用法】
アイデアピン広告は、静止画広告よりもはるかにリッチな情報を伝えられるため、特に「ブランドの世界観」や「商品の使用プロセス」を見せるのに最適です。
例えば、
このような「ハウツー(HowTo)」や「チュートリアル」は、Pinterestユーザーが元々求めている「アイデア」そのものです。そのため、広告でありながら非常に高いエンゲージメント(保存、コメント)が期待できます。
| アイデアピン広告 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 概要 | ・全画面表示で没入感が非常に高い。 ・ストーリーテリングが可能で、ブランドや商品の魅力を深く伝えられる。 ・「ハウツー」系コンテンツと相性が良く、高いエンゲージメントが期待できる。 |
・制作コストが高い(静止画に比べ、動画編集や複数素材の準備が必要)。 ・最初の1〜2秒(1ページ目)でユーザーの心を掴めないと、すぐにスキップされる。 |
まずはオーガニック(通常の投稿)でアイデアピンをいくつか投稿し、ユーザーの反応(保存率や完了率)が良かったものを広告として配信する(ブーストする)のが、失敗の少ない進め方です。
関連記事はこちら:費用対効果を上げるSNS広告の運用術
「Pinterest広告が良さそうなのは分かった。でも、うちはもうInstagram広告で手一杯だ」。これは、私がクライアントから本当によく聞く言葉です。PinterestとInstagramは、どちらもビジュアル中心のプラットフォームであるため、混同されがちです。しかし、前述の通り、その「使われ方(ユーザーマインド)」は全く異なります。したがって、広告も「使い分ける」のが正解です。
両プラットフォームを同じ「ビジュアル広告」として一括りにし、同じクリエイティブ(広告素材)を横流しするのは、プロのマーケターとしては三流の策と言わざるを得ません。それぞれの「文脈」に合わせた使い分けが必要です。
| 比較項目 | Instagram広告 | Pinterest広告 |
|---|---|---|
| ユーザーマインド | 受動的・交流・発見(暇つぶし) 「他人」のライフスタイルを見る。 |
能動的・検索・収集(計画) 「自分」の未来のライフスタイルを計画する。 |
| 時間軸 | 過去~現在 | 未来 |
| 広告の役割 | 「衝動」と「憧れ」の喚起 (例:「あ、これ今すぐ欲しい!」) |
「計画」と「実行」の支援 (例:「あ、このアイデア(商品)、今度の〇〇に使おう」) |
| 強いターゲティング | デモグラフィック、興味・関心、リターゲティング | キーワードターゲティング、興味・関心、リターゲティング |
| 適した戦略 | トレンドの創出、即時性の高いキャンペーン、ブランドの「世界観(憧れ)」の提示 | 検討初期層へのアプローチ、ハウツーコンテンツ、ECサイト(カタログ連携)への直接誘導 |
【使い分けの具体例(アパレルブランドの場合)】
このように、同じ商品でも「見せ方」と「狙う層」が全く異なるのです。

「専門的で、始めるのにお金がかかりそう…」と感じるかもしれませんが、その心配は無用です。Pinterest広告は、他の運用型広告(GoogleやInstagram)と全く同じ仕組みで、少額からスタートできます。
【費用(課金形態)】
広告費用はオークション形式で決まります。あらかじめ「1日1,000円まで」といった予算上限を設定できるため、使いすぎる心配はありません。
最低出稿金額の縛りはないため、1日数百円からでもテスト配信が可能です。
【Pinterest広告の始め方(5ステップ)】
ハードルは驚くほど低いです。まずはビジネスアカウントを作成し、自社の商材に関連するキーワード(例:「キャンプ飯」「メンズ ギフト」)で、どんなピンが人気なのかをリサーチすることから始めてみてください。
Pinterest広告のポテンシャルは、特にビジュアルと「未来の計画」が重要な業界で最大限に発揮されます。ここでは、代表的な3業界における(架空の)成功事例を、具体的な施策と共に紹介します。
【事例1】インテリア業界(D2C家具ブランド)
→課題: 検討期間が非常に長く、競合ブランドも多数。検討初期層との早期接点創出が難しい。
→施策:
→結果: まさに「家」や「部屋」のことを能動的に考えているユーザーに、最適なタイミングで商品(アイデア)を提示。広告経由での「保存(リピン)」数が他SNSの5倍に。保存されたピンは、ユーザーが数ヶ月後に購入を検討する際の「比較リスト」として機能し、他SNS広告と比較してROAS(広告費用対効果)が180%改善した。
【事例2】美容・コスメ業界(中堅コスメブランド)
→課題: 新商品の認知を広げたいが、大手ブランドの広告予算には勝てない。商品の「使用感」を伝えたい。
→施策:
→結果: 単なる商品紹介ではなく、「自分に役立つメイク術」として広告が受け入れられ、アイデアピンの「保存率」が静止画広告の3倍を記録。コメント欄でも「この使い方が知りたかった!」とポジティブな反応が多発。ECサイトでの「指名検索」が急増し、発売初期の売上に大きく貢献した。
【事例3】食品業界(大手食品メーカー)
→課題: 定番商品(例:トマト缶)の、日常での使用頻度(購買頻度)を上げたい。
→施策:
→結果: 広告が「レシピのアイデア」としてユーザーの「献立ボード」に大量に保存された。Pinterest上で「このレシピ試したい」と思わせることで、スーパーマーケットでの実購買(オフラインコンバージョン)を強力に後押し。広告接触者のブランド好意度が、非接触者と比べて大幅に向上した。
Pinterest広告は「未来の顧客」への種まきである
Pinterest広告について、その本質的な特性から、他SNSとの違い、具体的な活用法まで解説してきました。
この記事で最も伝えたかったことは、Pinterestが他のSNSと決定的に異なるのは、ユーザーが「未来の自分」のために「能動的に検索」しているプラットフォームである、という点です。このユニークなマインドセットが、広告を「邪魔者」から「探していたアイデア」へと昇華させます。
Instagram広告が「今」の衝動を刈り取る「狩猟型」の広告だとすれば、Pinterest広告は、ユーザーの「未来の計画」という畑に「アイデア」という種をまき、購買意欲が実るのを待つ「農耕型」の広告と言えるかもしれません。特に、検討の初期段階にある「未来の顧客」と、まだ競合も気づいていない最適なタイミングで出会えることは、広告主にとって最大の魅力です。このユニークなプラットフォームの可能性に、いち早く気づき、行動することが重要です。
読者の皆様が「明日から」実践できる、具体的な行動を2つ提案します。
未来の計画を立てる、購買意欲が最も高いユーザーが、あなたの「アイデア」を待っています。その「出会いの場」を活用しない手はないはずです。
併せて読みたい記事:業種別に見るSNS広告の成功パターン
執筆者
小濵 季史
株式会社カプセル 代表
デザイン歴30年以上。全国誌のデザインからキャリアをスタートし、これまでに1,000件以上の企業・サービスのブランディングを手掛けてきました。長年の経験に裏打ちされたデザイン力を強みに、感性と数字をバランスよく取り入れたマーケティング設計を得意としています。
また、自らも20年以上にわたり経営を続けてきた経験から、経営者の視点に立った実践的なマーケティング支援を行っています。成果に直結する戦略構築に定評があり、多くの企業から信頼を寄せられています。
香川県出身で、無類のうどん好き。地域への愛着と人間味あふれる視点を大切にしながら、企業の成長を支えるパートナーであり続けます。
